ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

 腕を取られ、鍵が掛かった屋上の扉の前まで上がった。
 薄暗く、空気は停滞していた。
「……」
 いろはと会うのは晴樹が戻ってきた日以来だった。


「――認めないから」
 振り向いたいろはが低い声で言った。
「……」
「あんたが誰だって関係ない」
「……」
 私はじっとしていた。

「なんか言いなよっ!」
 おもいきり肩を押された。
 背中が扉にぶつかって、ボイラー室に押し込まれた瞬間の恐怖が蘇った。無意識に悲鳴が漏れ、いろはがびくっと肩を上げた。奥二重の目は泳ぎ、指先は唇を触っている。
 いろはが初めて小さく見えた。

「……」
 ……そうだよね、……いろはも、キツイよね、
 私は肩で呼吸をして、なんとか気持ちを立て直した。 

「ちゃんと話さない? これからのこと」
 静かに話しかけた。
 取り違えられた私たちには、互いの痛みが分かるはずだから。
 でもそこには、私が望んでいる和解――のようなものは見当たらなかった。

「あんたとなんの話をするわけ?」
 いろはは冷たく私を睨んだ。
「晴君も帰ってきてようやく家族そろった。あんただけ邪魔なの。それだけの話じゃん」
 思ってもみない言葉を浴びて、身動きができなくなった。
「出てってよ。私の家から」
 ……なんで私、出て行かないといけないの?
 せっかく家族と心が通い始めてるのに。なんで……。
「これ以上、私たち家族をめちゃくちゃにしないでよ!」
 ……私が、してるの?
 心の叫びは、喉の奥で止まったままだった。 

「あんた、知ってたんだってね。自分がパパとママの子供だって」
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