ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「でも残念だったね。パパもママも私を追い出したりしないんだって。これからもずっと私がパパとママの子供でいていいんだって。その意味わかる?」
「……」
 足元から砂が引いていくようだった。

 これが挑発だとしても、両親がいろはに示した未来が私の心を押し潰した。
 ……だって私は、言われてない、
 これからのこと、なにも……。
 いろはにだけ……。

「私が『蓮見いろは』! あんたは『山都渚央』!」
 いろはの引っ掻くような声に一瞬怯んだ。でも……
 違う!
 ――私は、蓮見渚央だ。
 それは譲れない。

「なに、今の話」 
「!」
 突然混じってきたその声に、私もいろはも階段を見た。
 陸が立っていた。

「……あ、あ、ああ」
 いろはが首を左右に振った。涙がぼろっと零れた。

「渚央、どういうことだ……?」
 陸はまっすぐに私の前に来た。肩を掴まれた。
「渚央が、本当は――なに……?」
 驚きが疑問に変わった。
 いろはが逃げるように階段を下りて行った。
 私はその場にへたり込んだ。
 極度の緊張がするりと抜けていった。
 
「渚央」
 陸が私の目線にしゃがんだ。
「どういうこと?」
 陸は私から視線を離さなかった。
「蓮見が言ったことって」
 私は、重い頭を片手で支えた。

「ごめん、今、頭回らない……あとで話すから……でも、誰にも言わないで」
 ――陸はいろはの言葉を聞いてしまった。隠しても意味がない。

「放課後、一緒に帰る?」
 動揺のせいか陸の目は揺れていたけれど、当然だと言いたげに頷いた。
 
 昼休みが終わった。
 私たちは重い心を引きずったまま、教室へ戻った。

 
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