ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
――「渚央っ? どうした」
外に出ると、帰宅した翔樹と鉢合わせた。
たまらずに視線を外した。
……本当は甘えたい。
どうして苦しいか、全部話して、慰められたい。
だけどどうせ意味がない。
私はここから出て行くから。
「誰になに言われた?」
翔樹に掴まれた腕から温かさが伝わってくる。その腕を払った。「なんでもない」
そして走った。
コロコロコロコロ、とコオロギが力強く鳴いていた。
旅館の駐車場を突っ切って、道路に出た。
気づけば、温泉が地底から湧き上がる音も遠ざかって、川のせせらぎが横にあった。
振り返る。
旅館の看板はすでに見えない。
暗い夜道をひたすら歩きながら、冷えてきた夜風に晒されて半袖の腕を抱きしめた。
【第四章・終わり】