ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

 渚央が私の娘だと知った後、私はふたりの娘に同じくらい心を砕こうと決めた。
 それなのに……、気づけば、渚央をどうすれば幸せにできるのか――、そればかりを考えている。
  
 もっと、渚央を見ていたい。
 もっと、渚央を知りたい。

 本当はいつも喉まで出かかっている。
 ――「一緒に、帰ろう」
 
 見送られるたびに、『あなたの家はこっちよ』そう言って腕を引いて、胸に抱きしめたいと思った。
 
 ――晴樹が戻ってきただけじゃ足らないの。
 ――渚央が戻ってきて本当の家族が、揃うの。
 
 だけど、それを言う資格が私にあるはずがない……。
 渚央もこんな私を、母親だと認めないだろう……。
 だからせめて、これまでと変わることなくいろはを大事にしなければならない。血の繋がりで立場を変える――そんな間違った親の姿を、これ以上、渚央に見せるわけにはいかない。

  
      
  *

「お母さん、ただいま!」
 晴樹が学校から帰ってきた。

「おかえり。学校はどうだった?」
 ランドセルを受け取って、手洗いをさせる。付いて行き、あれこれと世話を焼いた。

 晴樹はこれまで身の回りのことはすべて自分でやってきたらしく、親の手を必要としていなかった。それでもなんでもやってあげたくなる。晴樹は困惑しているようだった。
 
「友達ができたよ!」
「そう! どんなお友達?」
 些細なことも見逃したくなかった。
「えっとね」
 晴樹は聞かれたことに何でも答えた。だけど質問だけはしてこなかった。
 
 ……晴樹を、――もちろん渚央も、“子供らしい子”に戻してあげたいな、
 切なさに胸が掻き乱される。
 だけどあきらめる気はなかった。
 晴樹のことも、渚央のことも、時間がかかっても……。

   
「おやつをあげるわね。ジュースはグレープサイダーかな?」
「うん! じゃあ、僕のコップで!」
 晴樹はダイニングテーブルの、自分の場所へと移動した。
 嬉しそうな晴樹の頭を撫でて用意を始める。
 目の前に晴樹のためのランチョンマット、コースターを置く。
 毎年、晴樹のいない誕生日やクリスマスに買い続けた服や食器。いつか使える日が来ると信じた。その願いは今、ようやく届いた。
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