ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
すぐに佳苗がやってきた。
「お母さんは"青い扉のお部屋"だよ。会ってこようか」
佳苗の言葉に、直樹に似た子供たちが喜ぶ。
「蓮見君は出産までいるんでしょ、奥さんが分娩室入ったら廊下で待っててね」
「私なら大丈夫!」
舞は慌てて声を掛けた。
「ここにいてもらっても。っていうか、蓮見君、同級生、だよね?」
勝手に動く口に、舞自身が驚いていた。
学生時代は一度も話しかけることができなかったのに。
「ん? 同級生?」
直樹が近づいてきた。心臓が飛び出しそうだった。
佳苗が呆れて言った。
「中学も高校も一緒だったじゃん。失礼なヤツ」
「女の人は変わるからなあ」
その言葉が舞を覚えていない言い訳だと知っていても、直樹が触れられる距離にいることに浮足立った。
「私、山都舞だよ。でもクラス別だったし、接点なかったし」
「だよね」
直樹がほっとしたように笑った。
「……」
彼の笑顔が特に好きだった。近寄りがたい整った顔が、笑うと親しみやすくなるのだ。
「今、ちゃんと覚えた」
直樹の弾けるような笑顔が、学生時代を思い出させた。
「もう忘れない。山都舞ちゃん」
「!」
憧れだった直樹から『舞ちゃん』と呼ばれたことに頬が火照った。
それからいくつか言葉を交わしたが、佳苗が仕事に戻り、直樹も先生に呼ばれて部屋を出ていった。
ひとりになり、舞はベッドに身を預けて無機質な天井を見上げた。
……蓮見君、全然変わってなかった。ううん、むしろ男っぽくなって色気がすごかった。
「……」
そして冷静になった。
……そっか、同室の彼女が、蓮見君の奥さんなんだ。
虚しさと羨望、嫉妬心が頭の中をぐるぐる絡まって回っている。
……三人目、って言ってたよね。あの蓮見君とそれだけ愛し合ったってこと、よね。
「……っ」
……悔しい、許せない、なんで私ばっかり。
元恋人への恨みはとっくに呪いに変わっている。
……みんな、みんな、不幸になればいい、私みたいに。
舞は布団をかぶり、嗚咽を嚙み殺した。
他人の不幸を願っても、惨めさが消えることはなかった。
+ +
直樹の妻は日を跨いで出産した。