ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
最終章

6-1 頑張ることを止めた日


   *
 
 行く当てもなく歩き続け、温泉街を抜けて、少し離れた土産屋の前に出た。
 営業が終わった店先はシャッターが閉まっている。
 その前に置かれたベンチに腰を落とした。

 
 ――本当は離れに戻るつもりだった。
 だけど翔樹は、私が泣いていたことを両親に話すだろう。
 両親は理由が分からないままきっと私に謝りにくる。
 繰り返される曖昧な優しさに、これ以上傷つきたくなかった。


 
 どのくらいそこに座っていただろうか、遠くの方から私の名前を呼ぶ声がした。
 陸だった。
 
 走ってきた足音が私の目の前で止まった。
 ゆっくり顔を上げた。

「渚央っ、よかった、見つかって」
 切れ切れの声。乱れた呼吸を整える息遣いに、私は笑顔を向けた。
 でもちゃんと笑えなかった。
「翔樹先輩がメールくれた。渚央が家出したから一緒に探してくれって」
「……ごめん。もしかして心配した?」
 流れてきた涙を、腕で乱暴に拭った。
「ははっ、家出のつもりはなかったんだけど」
 声だけでもと、笑った。
「座ったら、立ち上がれなかっただけで」
「……」
 黙った陸に視線を向けた。
 陸の目尻に涙が光っていた。

「……ごめんって。もう帰るからさ」
 そうは言っても、身体が動かなかった。
「俺んち、行こう」
 差し出された陸の手を、震えながら掴んだ。
「……いいの?」
「うん。うちは大丈夫」
 優しい陸の父を脳裏に呼んだ。
 甘えようと思った。
 やっぱり私は図々しい人間だ。でももう、疲れてしまった。
< 96 / 110 >

この作品をシェア

pagetop