ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
最終章
6-1 頑張ることを止めた日
*
行く当てもなく歩き続け、温泉街を抜けて、少し離れた土産屋の前に出た。
営業が終わった店先はシャッターが閉まっている。
その前に置かれたベンチに腰を落とした。
――本当は離れに戻るつもりだった。
だけど翔樹は、私が泣いていたことを両親に話すだろう。
両親は理由が分からないままきっと私に謝りにくる。
繰り返される曖昧な優しさに、これ以上傷つきたくなかった。
どのくらいそこに座っていただろうか、遠くの方から私の名前を呼ぶ声がした。
陸だった。
走ってきた足音が私の目の前で止まった。
ゆっくり顔を上げた。
「渚央っ、よかった、見つかって」
切れ切れの声。乱れた呼吸を整える息遣いに、私は笑顔を向けた。
でもちゃんと笑えなかった。
「翔樹先輩がメールくれた。渚央が家出したから一緒に探してくれって」
「……ごめん。もしかして心配した?」
流れてきた涙を、腕で乱暴に拭った。
「ははっ、家出のつもりはなかったんだけど」
声だけでもと、笑った。
「座ったら、立ち上がれなかっただけで」
「……」
黙った陸に視線を向けた。
陸の目尻に涙が光っていた。
「……ごめんって。もう帰るからさ」
そうは言っても、身体が動かなかった。
「俺んち、行こう」
差し出された陸の手を、震えながら掴んだ。
「……いいの?」
「うん。うちは大丈夫」
優しい陸の父を脳裏に呼んだ。
甘えようと思った。
やっぱり私は図々しい人間だ。でももう、疲れてしまった。