ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
 
  *

 「おじゃまします……」
 陸が歩きながら両親にメールをしたからか、陸の家族が温かく迎えてくれた。
 恐縮しながらも中へ入った。

「ごはんは食べた?」
「あ……まだ、です」
 言われたら急にお腹が空いてきた。
「じゃあ、みんなで食べましょう」
 大きなテーブルでは何人かの男の人が食事を摂っていた。
 私を見て小さく頭を下げてくれて、私も慌ててお辞儀した。
「会社で働いてる人たちだよ」
 陸が小声で教えてくれた。
 
 陸の母が作ったスタミナ満点のごはんを食べていると、陸の父がやってきた。
「お家の方には連絡しておいたから心配ないよ。今日は泊まっていって」
「!」
 私は助けを求めるように陸を見た。陸はいつもの無表情に戻っていて、「部屋はいっぱいあるから大丈夫」と、私の心配とは別のことを口にした。
 普段と変わらないやりとりのおかげか、私の緊張が少しほどけた。
「……ありがとうございます」
 穏やかな笑顔でそばにいる陸の両親にお礼を言ってから、ああ、また図々しい――と気づいたけれど、あきらめた。
 だってそういう性格だから、しょうがない。
 

 食事を終えると、今日泊まらせてもらう部屋へ案内された。
 陸の家は福祉事業の関係で人を泊めることも多いらしい。

「わあ、ベッド」
 思わず声に出したら、陸が引いた。
「ベッドに反応する人、初めて見た」
 ……別にいいじゃん、と口を尖らせていると陸が踏み込んできた。
「渚央、なんで家出した?」
「……」
 私の事情のすべてを話したせいか、知る権利があると思っているような顔つきだった。
 その距離感がくすぐったくて、私はちょっと笑ってしまった。
「なんだよ、心配してんのに」
「はは、ごめん」
 そして私も、陸には何でも話していいような気持ちになっていた。

「実は転校することになって」
「はっ?」 
 陸の瞳孔が開いた。その動揺が慰めになった。
「自業自得なんだけど……」
 味方でいてくれる陸を前に、私は経緯を話した。 
 ――いろはが転校したらいいと思って口にした言葉が、ブーメランになって返ってきてしまったこと。それでつい「家を出て行く」「遠くへ行きたい」と言ってしまったこと。
 蓮見家が、晴樹が戻って『私抜き』でも幸せで、両親はいつまでたっても私に気を遣って、それがたまらなく寂しい――と思っていることは、言わなかった。言ったらまた涙が出そうだから。
 
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