ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「念のために聞くけど、渚央は転校したくないんだよな?」
「したくない。考えたこともなかったし」
「今まで、したくてもできなかったわけじゃなくて?」
「うん」
確かに、無視や人格否定は日常的だった。嫌だなあ、と思ってきた。だけど"悪いこと"をしていないから逃げたくなかった。友達がいなければ違ったのかもしれないけど、進級しても必ず友達はできたから。
「贅沢言うと、私が『蓮見渚央』だって言えればいいのにって思うけど」
「は? 言えないの? なんで?」
「あ――、うん」
一瞬喉が詰まってしまった。だけど頑張って続けた。
「たぶんいろはのためだと思う。本当のこと話したら、いろはがつらい目に遭うかもしれないじゃない?」
「なら、渚央は?」
「だからたぶん、転校なのかな」
「納得できない。ふざけんな」
「はは。陸が怒らなくたっていいじゃん」
……ありがとう。
私の代わりに本気で怒ってくれる陸に心の中で言った。
「仕方ないよ。突然『娘です』なんて言われたって、困っちゃうんだよ」
最初から両親だと知って近くにいた私とは違うから。
「だからあきらめた!」
私はわざと明るく言い切った。
簡単に行き来が出来ない場所で暮らせば、家族のことも旅館のこともいつか懐かしいだけの記憶にできるかもしれない。
「どこに行くか分からないけど、そこから手紙書くね!」
「……」
「あっ、スマホ買ってもらえたらメールかな?」
おどけたけれど、陸は唇を噛んでいた。
閉めたドアの向こうが騒がしくなった。
陸の父の声が近づいてきた。
「――そんなところでどうしました? 中に入ればいいのに」
「!」
え?
私の心臓が跳ねた。陸も驚いていた。
……誰か、ドアの外にいたの?
凝視するドアが、陸の父の手によって開いた。
その後ろに、父と母が立っていた。