冷静な天才外科医の弱点は、私でした



「さて……」


 宗形先生に言われてしまえばもう何も言えない。

 私は明日、すぐに取り掛かれるようにデスクを整えると、鞄に荷物を詰め込んだ。


(さっきの宗形先生、見たことない表情だったな……)


 いつもの、冷淡とも言える顔とは全く違う。

 春の木漏れ日が似合いそうな、そんな穏やかさだった。


(恋人にもあんな顔を向けるのかな)


 ふとそんな考えがポンと浮かんでくる。

 すぐに首を横に振って、部屋の電気を消して廊下に出た。

 私はまだ知らない。

 このとき宗形先生が、私の好きな飲み物を覚えていたのは単なる「よく見ていたから」ではない。

 私がいつ何を飲むのか。

 何時頃に疲れるのか。

 どんな資料の構成を好むのか。

 どんなときに黙るのか。

 いつからか彼は、私のことばかり見ていた。

 そして、私たちだけがそのことにまだ気づいていなかった。
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