冷静な天才外科医の弱点は、私でした
「今、何て?」
「少し疲れた、と」
思わず宗形先生の顔を見る。
本人はいたって普通の顔をしていた。
「先生でも、そりゃ疲れますよね」
冗談半分に言うと、
「俺を何だと思ってるんですか?」
「何でもできる人」
ちょっとムッとされて、それに即答すると宗形先生は少しだけ笑った。
「違う」
「え?」
「俺も普通の人間です」
その言葉が、妙に胸に残った。
指を組んだ宗形先生が私を見る。
「君には、そう思われたくない」
心臓が、小さくトクンと鳴った。
意味を考えようとしたけれど、怖くなって私は資料へ視線を落とした。
「……じゃあ、疲れたときはちゃんと言ってください」
「君には言ってもいい?」
「え?」
「そういうことです」
宗形先生の声は、いつもと変わらなかった。
けれど胸の奥だけが、ざわついていた。