冷静な天才外科医の弱点は、私でした
「天才なんて呼ばれると困ります」
「どうして?」
「期待されますから」
「期待されるのは、いいことじゃないですか」
「期待を裏切りたくないですから」
静かな声に、私は何も言えなかった。
宗形先生はかけていた眼鏡を外して、読んでいた本を閉じる。
「患者は、俺が天才だから助かるわけじゃない。一つでも何か見落とせば、結果が変わることがある」
その言葉に、初めてこの人の孤独が見えた気がした。
誰もが彼を「天才」と呼ぶ。
誰もが、彼ならできると思っている。
だから、失敗できないし弱音も吐けない。
期待に応え続けなければならない。
「……先生」
「はい?」
「すごく努力してるんですね」
彼ははにかむように笑った。
「当たり前です」
「でも」
私は言った。
「私は、先生がこんなに勉強してるなんて知りませんでした」