冷静な天才外科医の弱点は、私でした



 その言葉に、はっきりと熱が混じった。

 私は息を止める。

 低い声なのに、会議室全体に響くような気がした。

 出席者たちも顔を見合わせている。


「……わかっています」

「なら、なぜ止めるんですか」


 初めて、彼が感情を見せたのだろうか。

 私は資料を握り直した。


「止めたいわけではありません。続けられる形にしたいんです」


 目蓋の裏に、昔の記憶がよみがえる。

 以前、別の病院で働いていた頃。

 救急部門の設備更新をめぐって、大きな議論になった。

 現場からは、「今すぐ必要だ」と主張された。

 この設備があれば救える患者がいる。

 患者の命のために必要なのだから、予算をつけるべきだ。

 当時の私はその言葉に頷いた。

 患者さんを救いたいーーその気持ちを否定できなかった。

 結果、設備更新は承認され現場は喜んだ。

 私も役に立てたと思った。


< 5 / 79 >

この作品をシェア

pagetop