冷静な天才外科医の弱点は、私でした
「先生、ちょっと失礼します」
「ああ」
自然な流れだった、と思う。
それなのに、隣に座ってみると妙に近い。
宗形先生の肩がすぐ隣にある。
彼の手が資料をめくる。
低い声が、すぐ近くから聞こえる。
「ここです」
「……はい」
私は資料を見る。
けれど、どうにもグラフや数字が入ってこない。
「仲山さん、緊張してる?」
「してません」
「嘘ですよね?」
宗形先生が笑った。
「わかりやすいですね」
「先生のほうこそ、さっきから少し嬉しそうです」
宗形先生は少し黙った。
そして、微かに震える声で言った。
「嬉しいですよ」
「……どうして?」
「君が、俺の隣に来てくれたから」
胸が大きく鳴って、私は何も言えなかった。
宗形先生も、それ以上は何も言わない。
ただ少しだけ近い距離のまま、資料を見ている。