冷静な天才外科医の弱点は、私でした



「先生、ちょっと失礼します」

「ああ」


 自然な流れだった、と思う。

 それなのに、隣に座ってみると妙に近い。

 宗形先生の肩がすぐ隣にある。

 彼の手が資料をめくる。

 低い声が、すぐ近くから聞こえる。


「ここです」

「……はい」


 私は資料を見る。

 けれど、どうにもグラフや数字が入ってこない。


「仲山さん、緊張してる?」

「してません」

「嘘ですよね?」


 宗形先生が笑った。


「わかりやすいですね」

「先生のほうこそ、さっきから少し嬉しそうです」


 宗形先生は少し黙った。

 そして、微かに震える声で言った。


「嬉しいですよ」

「……どうして?」

「君が、俺の隣に来てくれたから」


 胸が大きく鳴って、私は何も言えなかった。

 宗形先生も、それ以上は何も言わない。

 ただ少しだけ近い距離のまま、資料を見ている。


< 53 / 79 >

この作品をシェア

pagetop