冷静な天才外科医の弱点は、私でした
5.すれ違う二人
遠くなる距離は
宗形先生が、私に優しくなった。
それは、誰が見ても分かるような変化ではない。
朝、廊下ですれ違ったときに声をかけてくれる。
会議が長引けば、帰るように促してくる。
私が昼食を抜いていれば、何も言わずに机へ軽食を置いていく。
どれも、一つひとつならただの気遣いで終わる。
でも積み重なると、違って見えてしまう。
例えば、ある日の午前中のことだ。
「仲山さん」
廊下で呼び止められた。
「何でしょう?」
「朝、食べました?」
「食べましたけど」
「何を?」
「……トーストです」
宗形先生の眉が、ほんの少し寄る。
「それだけ?」
「……時間がなくて」
「昼はちゃんと食べてください」
「はい」
「約束ですよ」
そう言って、宗形先生は歩いていった。
私はその背中を見ながら、頬が緩むのを必死に堪える。