冷静な天才外科医の弱点は、私でした



 それから数日後。

 仕事中の何気ない一言からそれは始まった。

 国際連携室の佐々木主任が、資料を届けに来た。

 佐々木主任とは、心臓病治療センターの設立準備で何度も顔を合わせている。


「仲山さん、例の補助金資料なんだけど」

「はい」

「この数字、少しだけ直しておいて」

「わかりました」


 資料を受け取る。ここまでは普通だった。

 佐々木主任は帰りかけて、ふと足を止める。


「ああ、そうだ」

「はい?」

「宗形先生の海外招聘の件、知ってる?」


 私は一瞬、意味がわからなかった。


「……海外?」

「うん。ボストンの大学病院から正式に打診が来たんだよ」


 手足が一気に冷えていく。


「一年間の予定らしい」

「一年……」

「まだ先生が返事してないから決定じゃないけど」

「そうなんですね」


 佐々木主任は特に気にする様子もない。


< 58 / 79 >

この作品をシェア

pagetop