冷静な天才外科医の弱点は、私でした
それから数日後。
仕事中の何気ない一言からそれは始まった。
国際連携室の佐々木主任が、資料を届けに来た。
佐々木主任とは、心臓病治療センターの設立準備で何度も顔を合わせている。
「仲山さん、例の補助金資料なんだけど」
「はい」
「この数字、少しだけ直しておいて」
「わかりました」
資料を受け取る。ここまでは普通だった。
佐々木主任は帰りかけて、ふと足を止める。
「ああ、そうだ」
「はい?」
「宗形先生の海外招聘の件、知ってる?」
私は一瞬、意味がわからなかった。
「……海外?」
「うん。ボストンの大学病院から正式に打診が来たんだよ」
手足が一気に冷えていく。
「一年間の予定らしい」
「一年……」
「まだ先生が返事してないから決定じゃないけど」
「そうなんですね」
佐々木主任は特に気にする様子もない。