極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
──茉莉はそう言うのじゃない。
俺たちマフィアは色眼鏡で見られて当たり前。それをいちいち気にしてはいられない。
しかし、ときには何の色眼鏡もなしに一般人と同じように接してくれる人間の有り難さは、お前だってわかるだろうに──とは、言ったら陳の眉間の皺がまた深くなるだけだろう。

陳は俺の父亲(父上様)から、俺のお目付け役を言い渡されている。
とっとと隠居した父亲(父上様)の代わりとして、俺が黒華幇(ヘイホワバン)の若き老大(ボス)として日本でもちゃんと仕事が出来るか、各所に報告する義務がある。
だから、女に現を抜かすなと暗に言っているのだろう。

まるで『初めてのお使い』だ。
喉からそんな呟きが漏れてしまいそうになったとき、タンっとパッドをタップする音がして、呟きは喉の奥へと引っ込んだ。

「お待たせしました。今日の東洋幫(日本ヤクザ)、周防会長との会合ですが、内容はこの辺りの土地を次々と買い占めだした中国オーナーへの《《牽制》》です」

陳が俺にパッドを差し出す。
その画面には数名の男の顔写真と名前、購入した地域が記載されていた。
その中に金の下品なネックレスを付けた中年男性がいて、いかにも成金風情らしくて失笑してしまいそうになった。

「牽制か……このオーナー達は俺達と違って本物のマフィアじゃないから、こその牽制か」

「はい。周防会長の希望は、これ以上この地域の土地を食い荒らすのをやめさせることです」

「東洋幫(日本ヤクザ)も大変だ。この辺りの安い土地でもまとめて買われたら脅威だ。買い戻す資金もバカにならない」

ふうっと紫煙を窓に向けて吐き出す。
車窓の向こう側、日本の整った街の夜景が一瞬曇り、また鮮明なネオン色が浮き出る。
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