極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
そして、窓に陳がそっと眼鏡を押し上げているのが見えた。
どうやら「大変だ」だけではお気に召さないらしい。

「……それだけでしょうか」

「分かっている。続きをちゃんと話す」

シガーの灰を車内の灰皿に落としてから、俺は口を開く。

「周防組は指定暴力団。下手に動けばすぐに警察が飛んでくる」

「では、周防会長が直接交渉されては」

「それが出来れば、俺達は呼ばれない。相手は一般人だ。マフィアじゃない」

「確かに、一般人相手に組が動いたとなれば……」

「そうだ。逆に周防組が警察にガサを入れられる、絶好の機会になる。昨今は特に厳しいからな」

背を座席に預けて、シガーの先から立ち上る、ウィスキーのような甘くビターな煙を楽しむが、どうしてだろう。
先ほど茉莉が淹れてくれた、茶の香りの方が恋しくなる。一緒に茉莉の笑顔も瞼の裏に過ぎるが、今はシガーの煙に巻いた。

「しかも連中は言葉が通じない振りをする。日本語で対話をしない。責任者もコロコロ変える。まるで小狡い鼠だ」

「責任者を出せと言われて、素直に出す者はいませんからね」

「適当な誰かを雇うに決まっている。《《本当の黒幕はきっと日本にいない》》」

「有耶無耶にされるのがオチ、と」

「あぁ。周防組はシマを食い荒らされるのを、黙って見ているほど大人しくはない。だから──」

俺はにやりと口の端を上げた。

「鼠獲りが上手な俺たちを呼んだ。中国人で、四合回の黒華幇(ヘイホワバン)の名前は、赤子でも知っているからな」

もちろん言葉の壁なんて関係ない。
俺なら鼠共の巣穴でも会話が出来る。
そして一網打尽にして、巣穴に溜め込んだお宝も頂く。

「父亲(父上様)は親日家ですからね。お困りの方がいたら手を貸してしまう性分なんです」

「よく言う」

「老大(ボス)も、どうぞそれを見習って下さい」

陳はそこで微笑した。
どうやら俺の解答に満足したようだ。
そして、会合がある場所までしばし陳との打ち合わせは続いた。言葉を重ねるたびに灰皿にシガーの本数が増える。

しかし、シガーの芳醇な香りは茉莉が淹れてくれたお茶の香りを上書きすることは無かったのだった。
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