極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない

二章

お茶の爽やかな香りを肺に満たしたまま『春福里』を出ると、外の空気はいつも味気ないものに感じる。

この時間の薄暗い商店街は日本人の姿は見かけず、キャリーを引いた外国人が目についた。
それらを横目で見ながらカツカツと、革靴の音を響かせて商店街を抜けると、大通りに本国でも流行りの高級外車が止まっていた。

その車の前に、眼鏡を掛けた几帳面な面持ちの男が律儀に立っている。名前は陳(チェン)。本名かどうか知らない。
陳に向かってすっと手を上げると、陳はフットマンのような動きで車の後方ドアを開けた。

「凌雲(リンユウ)老大(ボス)。お帰りなさいませ」

「お迎えどうも」

さっと車の中に乗り込む。
陳も俺の横に乗り込むと、車は滑らかに動き出した。

「老大(ボス)。このあたりの現地調査なら私共が引き受けます。四合回の一角、黒華幇(ヘイホワバン)の老大(ボス)が毎週ウロチョロされては困ります」

「美味い茶を飲むためだ。いちいちホテルやデパートとか、堅苦しいところで茶なんか飲んでも味はしない」

しかも護衛で絶対、お前達が来るに決まっている。むさ苦しい男達に見守られて飲む茶なんか美味いはずがない。

などとは、よく尽くしてくれている陳の手前、黙ることにした。
代わりに足を組んで手を横に差し出せば、陳が素早くシガーを乗せた。
懐からジッポを取り出してシガーを燻らせる。

「……『春福里』の女店主が気に入っているなら」

「女には困っていない。仕事の話をしようか」

ふぅっと、煙を陳にかけるが、陳は微動だにせず「畏まりました」と言った。
そして何事もなかったように、座席の隅にあった電子パッドを操作し始める。
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