極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
誰が一緒だと、言いたくなったが、俺の母親は街の花屋で働いていた、ごく普通の女性。
そこを父亲(父上様)に一目惚れされた経緯があった。

「それよりも、我々が密かに介入して、商店街の祭りが成功したとして──オーナーが話し合いに応じると思っているのですか?」

「いや。思ってない。契約書のない口約束なんて、なんの効力もないからな」

きっと、売り上げを二倍、三倍、叩き出したところで、オーナーは検討するとだけ言って、最終的には土地買収を進めるだろう。

それでいい。
そうして、俺の息が掛かった仕掛け人を用意して『話が違う』と言って裁判にしたらいいのだ。
真っ当な理由で裁判をして困るのは誰か。
オーナーの後ろにいる黒幕は、そんな面倒臭いことになったら手を引いて、新たな場所で土地を荒らす方がいいと考えるだろう。

「ですが、口約束だけで裁判は難しいのでは」

「商店街会議の議事録を見た。書記係が『売り上げ二倍で交渉の余地を示す』という発言はしっかりと記録されていた」

「失礼しました。さすが老大(ボス)です」

まるで予め用意していた台詞のような陳の賛辞に、苦笑してしまう。
すると、陳が眼鏡のブリッジを押し上げ、目付きをいささか鋭くした。

「女店主が老大(ボス)のお気に入りなのは良くわかりました。ですが、あくまで向こうは一般人です。我々夜の世界とは相容れない、昼の住人です。それを肝に銘じておいて下さい」

──そんなんじゃない、とは、もう言えなかった。
車に染みついたシガーの甘くほろ苦い香りを、肺に入れる。
先ほど、知らない男が茉莉に触れていて、俺は不愉快だった。それを嫉妬だと、認めざるを得ない。

他の男に取られるぐらいならば──いっそ、俺なしでは生きていけないようにしてしまえばいい。
元より気に入ったものを手放す性格なんかしていない。

「分かった。茉莉が俺なしでは生きていけないようにしよう」

「……はい?」

「茉莉が俺を求めるようにしろ、ということだろ。分かった。全力でそうしよう。それなら何も問題はないな」

陳は珍しく戸惑った様子で口をモゴモゴしていたが、俺は窓へと視線を移して夜景を見つめるのだった。
< 20 / 38 >

この作品をシェア

pagetop