極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
「疲れた……」

私は店内のカウンター席でぐったりしていた。
鳩の壁時計を見れば夜の二十時。お店は閉店して、外の看板の明かりも落としている。

「お昼に込み合って、夕方から空いて、夜にまた込むんだもん。もう少し満遍なく来て欲しいというか……従業員があと一人いればって、そんな人件費の余裕なんて、ないない」

平日は閑古鳥が鳴いている時もある。ギリギリ赤字が出ない経営だ。

「大丈夫。まだ半年。一年で軌道に乗せる計画だから」

お客様の来店率は上がっている。
お店の口コミも上々。
両親も応援してくれている。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。
グッと背伸びをして、さぁ、あともう一息。
片付けに精算処理も、明日の仕込みもある。SNSの更新だってしたいな、と思ったとき。

りぃんと澄んだ音が店に響いた。
そこには──あの人。

凌(リン)さんがいた。

わぁ……今日もカッコいい。
スッキリとしたシルエットのブラックスーツを完璧に着こなして、こちらにゆっくりと歩く姿は滑らかで無駄がない。

すらりと長い手足と高い背格好は、一目でハイブランドのモデルと見紛うほどだ。
少し長めの髪はハーフアップにしていて、黒髪の前髪や裾が艶やかに揺れている。

間近で私を見つめる透き通る琥珀色の瞳と目が合うと、凌さんは片手を上げて微笑んだ。

息をのむほど整ったその顔立ちには、見る者を容易にひれ伏せさせる危険な美貌が宿っていた。
──が、しかし雰囲気に流されてはなるものかと、私はその場に立ち上がった。
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