極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
「凌さん。今はもうクローズの時間です。何度言ったら分かるんですか」

これもいつものやり取り。
凌さんは微笑みを浮かべたまま「不好意思(ブー ハオ イース)」と言った。

『不好意思』とは中国語で『ごめんね』といった、軽い口調の言葉だと私は凌さんから学んだ。

「もうっ。悪いとは思っていないくせに」

「いいじゃないか。俺と茉莉の仲だろ。この後仕事だから、今日もリラックス出来るお茶をホットで頼む」

凌さんは私の頭をポンポンと軽く宥めるように撫でる。その時に──いつも私の髪をすっと耳の裏にかけるから、ドキッとする。

しかも凌さんからはオリエンタルな香水の香りがするから、大人の男性として意識してしまうけれど、「凌さんはお客様!」と私がきゅっと唇を噛み締める頃には、凌さんは慣れた様子でテーブル席に着いていた。

着席して下から私を楽しげに見上げる凌さん。
ドキドキを抑えるためにもつい、いつもの台詞を口に出してしまう。

「あぁ。タチの悪い外国人に助けてもらったお礼が週一回、営業時間外の無銭飲食の要求だなんて」

酷いと、言い掛けたとき。
凌さんがジャケットからすっと、私の前に小ぶりなチャック付きの銀色のパックを出した。そこには金の龍が描かれている。

ふっと魅惑的な流し目で凌さんは私を見つめた。

「それは、まさか……!」

「これは『皇龍(コウリュウ)茶園』の最上級東方美人茶葉二十グラムで、五千円。茉莉はこれがいらないのかな?」

「要りますっ!」

「さっき、何か言い掛けていたようだけど」

「何も言ってません。凌さんが来てくれて嬉しいなぁって。じゃ、早速お茶の用意をしますねっ」

凌さんが苦笑しながら差し出したパックをしっかりと受け取る。
凌さんはこうして、私がおいそれと手を出せない高級茶葉をくれる。持ちつ持たれつみたいな関係になっていた。

それにこんな高級茶葉を貰えるなら、疲れも吹っ飛ぶというもの。今日一日頑張って良かった。
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