極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
「宝石や金じゃないのに、茶葉で喜ぶ女とは。本当に面白い……」

凌さんが何か囁いていたけれど聞こえなかった。
それよりも茶葉も貰ったし、早く凌さんのお茶を用意しなくてはと、いそいそとキッチンに戻るのだった。

凌さんにお水だけ出して、私はキッチンでオーダーされたホットティーは何がいいか考える。

「前は華やかな工芸茶、その前は香ばしい木柵鉄観音(もくさくてっかんのん)だったから……今日はリラックスティー。じゃあ、あれがいいかな」

お茶が決まり、いつものように用意を進める。
筒形のガラス茶器にお湯を注いで温めていると、ふと三ヶ月前の夜を思い出した。

凌さんと出会ったのも、今日みたいに店を閉めた後だった。
私は店のすぐそばで、アジア系の旅行客らしい男性達に絡まれたのだ。
カタコトの英語は通じず、周りを囲まれて手を掴まれた。助けてくれる人は誰もいなかった。

「怖かったな……」

お湯を捨て、銀の筒から茶葉を適量入れる。
再びお湯を注いで蓋をしたとき、凌さんが暗闇からすっと現れたのを鮮明に今でも思い出せる。

仕立ての良いスーツ姿で、立っているだけで迫力のある長身。
男性達が中国語で何か言い、凌さんも一言二言返して、薄く笑った。

その妖しい笑みに気色ばんだのは男性達の方だった。

私は男性達の怒りの気配を感じて、思わず目をきゅっと瞑った。
どかっ、ばきっとくぐもった音がして、目を開けたときには──。

「男の人達は倒れていて、凌さんが余裕の表情で立っていたんだよね」

呆然とする私をよそに、凌さんは私が『春福里』のオーナーだと知るやいなや、助けた見返りにお茶を要求してきたのが──今に続くこの関係だ。

凌さんは中国から来た青年実業家で、英語、日本語、中国語を喋れるそうだ。
あとは自国のお茶が恋しいと言うことを知った。

「ウチも味自慢だけど、凌さんならもっと高級店とか行きそうなのに」

素早く硝子の茶杯と、予め切っておいたピーチパウンドケーキをお盆に用意していく。鼻先にふわりと桃の香りが漂い、怖い記憶が遠くに薄れていった。
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