公爵様に、「父親と歳が近い男は嫌だろう?」と言われましたが、私そんなに若くないですけど。
言葉に詰まりながら言うルークスを見て、シエナがアーサーに視線を送った。公爵家の執事を何十年も勤めているアーサーは切れ者である。シエナの視線にすぐに気付いた。
『普通?これで普通なのですか?』
シエナが視線で訴えるので、アーサーは頷いた。
シエナが深刻そうにルークスに向き直る。
「それは……大変そうですね」
アーサーがルークスの斜め後ろから言った。
「ええ。ですのでお嬢様には、閣下の女性との会話の指南をしていただきたいのです」
「「えっ」」
シエナと共にルークスも声を上げた。
(いくら何でも、社交デビューを果たしたばかりの、一周りも歳の違うご令嬢にそれを頼むのは恰好がつかなくないか?)
シエナがルークスを見ると、ルークスは顔を逸らす。
「あ、いや、その……君さえよければ、頼む」
もごもごと言うルークスにシエナは笑顔で答えた。
「私で良ければよろこんで」
◇
この日から、シエナはたびたびノルマン公爵邸を訪れるようになった。お茶をしたり、庭を散策したり、ひと月も経てば、ルークスは口籠らずにシエナと会話が出来るようになっていた。そして自然体で素直なシエナの事を好きになるには十分な時間だった。
「シエナ。先日言っていたディアナ通りのパイだが、ちょうど通りかかったので買って来たぞ」
ルークスは何でもない風を装い、テーブルに並べたベリーパイをシエナに差し出した。
(皇都で人気店だと聞いてはいたが、あのように並ぶとは思わなかった)
シエナはパイを受け取り、凝視している。パイを凝視した後はルークスを見てニヤニヤと口元を綻ばせた。
「ふふ。通りがかったって……ふふ」
「なんだ?」
鼻に着く笑い方をされても、まったく怒りが湧いてこない。
「いいえ何でも。ありがとうございます。閣下がわざわざ買ってきてくれたなんて嬉しいなぁ」
満足そうに笑みを浮かべ、パイを口に運ぶ姿をみて、ルークスの心は満たされる。思わず表情が緩むので引き締めた。
「敬語じゃなくても良いと言っただろう」
「そうはいきません。閣下は公爵様ですし、私はしがない子爵令嬢ですから」
「ふん……」
拗ねたような声を出してしまった。シエナは「仕方ないなあ」とでも言うように笑う。
距離を詰めようとすれば線を引かれる。
(歳の差もあるし、このくらいの距離感が良いのだろう。しつこく言って嫌われたくはないからな)