強欲の公爵と呼ばれた元護衛騎士は、私と結婚するためだけに成り上がったらしい
コンラッド侯爵親子が遠くに行っても、アーリアは身動きが取れなかった。耳に入って来た会話が嘘であってほしい。
ライカンにとって有益な会話が聞ければと、出来心で柵を飛び越えた自分を叱責したかった。だけど、聞いてしまったのだからもうどうする事も出来ない。
(‥‥私生児。‥‥わたくしが)
確かにアーリアは上の兄姉達とは毛色が違った。成人したがアーリアは幼さの残る容貌だ。二人の姉はスラリと長身で、威厳のある美しさを持っているが、アーリアにはなかった。
(ライカンは知っているのかしら?わたくしが私生児だと言うことを‥‥いいえ、権力を望む彼が知っているなら、私生児との婚姻は望まないはず。知らないんだわ)
顔から血の気が引いた。自分が唯一、ライカンに出来る事があると思っていたのに、それがなくなってしまったのだ。
(ど、どうしたらいいの。ライカンに正直に言う?)
ぞくりと背筋に冷たいものが走った。脳裏に浮かぶ、ライカンの冷たい視線。
(‥‥駄目、駄目よ。もっと辛く当たられたら)
耐えられない。今以上に冷たい視線なんて。
アーリアの足は衝動的に動いた。
(わたくしがいなくなれば、ライカンはまた自分に有利な立場の令嬢と婚姻を結び直せるわ)
というのは建前で、アーリアは逃げたのだ。ライカンの冷たい視線から。