縁綴り~御曹司は五年越しの妻を愛でる~
1.知らない許嫁
「お母さん、お父さんと温泉でゆっくりしてきてね」


「本当にいいの? 羽瑠も一緒に行かない?」


「私は前期テスト中だから無理。大学三年生の今日までの感謝を込めた結婚記念日のお祝いなんだから、受け取ってよ」


少々恩着せがましく口にする。

こうでも言わなければ、心配性で優しい両親はきっと思いとどまってしまう。

私がプレゼントした温泉旅行に両親は今日から向かうのを躊躇っている。

両親は結婚式を挙げておらず、写真撮影のみをして婚姻届を提出したとずいぶん前に教えてもらった。

なので、両親の結婚記念日は婚姻届を提出した日になっている。

私が幼い頃からずっとリビングに飾られている、フロックコート姿の父とウエディングドレス姿の母が寄り添う写真に、視線を一度だけ移す。


「夫婦水入らずで楽しく過ごしてきて」


「ありがとう。本当に嬉しい。でも羽瑠がいてくれたらもっと楽しいのに」


どうしてもひとり娘を一緒に連れて行きたがる母に、内心苦笑する。

今も夫婦仲の良い両親は、新婚旅行に行っていない。

中学生の頃にその話を聞き、いつか新婚旅行代わりのふたり旅を贈りたいと思っていた。
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