ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『端的に言って恋だった』水守恵蓮/著
鋭い光を湛えた彼の黒い瞳が、私の顔を睨(ね)めつけている。

『どうです?』と言われても……。

彼の鋭い視線から逃れようとして、私は目を逸らした。

すると、中途半端にはだけた浴衣の袷からチラチラ覗ける、意外なほど逞しく厚い胸板に視線が留まる。

ドキンと心臓が跳ね上がって、慌てて目を泳がせた。

そう……。

今私を壁に追い込み、長い腕で囲い込んで動けなくさせているのは、立派な成人男性だ。

聡明さを物語る広い額に、涼やかで力のこもった切れ長の目が強印象な、端整で精悍な顔立ちをしたこの人を、一体誰が『女性的』だなんて言えるだろう。


「い、いえ……」


早鐘のような心臓が苦しい。

掠れた声で短く答えるのが精一杯なのに、残念なことに、彼の耳には届かなかったようだ。


「はっきりしない人だな」


眉をひそめ、目の前で不機嫌そうに歪む表情に、私の焦りはじわじわと広がっていく。

だけど彼は、私の動揺に気づいてくれない。


「であれば、実力行使で言わせてみましょうか」


薄笑みを浮かべてひんやりと物騒な言葉を口にして、彼は軽く小首を傾げた。

ただでさえ超至近距離にいるのに、斜めの角度を保ち、鋭い視線で私を射貫いたまま。

やけにゆっくりと顔を近づけてきた。

――どうして?

どうして私は、先ほどまで雛人形のようなメイクで艶やかな着物を身に纏い、華麗に踊っていた『お姫様』に攻め込まれているのだろう……?


その日の夕刻――。


「なんなの、なんなのよあの人はっ……!」


私、添島(そえじま)栞(しおり)は、切迫早産で急遽産休入りした同僚、橘(たちばな)優花(ゆうか)が入院している病院に駆け込み、憤慨と混乱を顕わにした。


「なにと言われましても……」

「他人事みたいに……! 元はと言えば、私は優花の代役でこの仕事に……」

「はは、それはほんとにごめん」


ベッドに身体を起こして座った優花が、私の勢いに苦笑いする。

彼女の下がった眉を見て、私もなんとか荒ぶる気持ちをセーブした。

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