ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『端的に言って恋だった』水守恵蓮/著
藤川園十郎――けっして取材に非協力的というのではない。
なにせ相手は、一般的にいっても由緒正しい名家の生まれの人だ。
品があるし、ぞんざいな対応をされたりもしていない。
けれど多分、優花の指摘通り、私は最初の掴みを誤ったのだろう。
口調は丁寧ながら常にどこか素っ気なく、もちろん会話が弾むことはなく順調とは言い難い状態。
私と彼の間には常時分厚いアクリル板が聳え立っているというか……感情面では塩対応、と言えば近いだろうか。
私が口をへの字に曲げて黙り込むと、優花は眉を八の字に下げた。
「まあ昔はどうあれ、今はたくさんの演目に引っ張りだこの人気役者。ファンの心を掴み続けるのは、藤川さんの歌舞伎役者としての信念が伝わるからでしょ」
「え?」
「八代目藤川園十郎は、今の歌舞伎界を率いる当代一の女形。皇族方も好んで観覧されるくらい、その演技には定評がある。生半可の覚悟でのし上がれる簡単な世界じゃないわよ、歌舞伎界って。……あ、そうだ」
言葉の途中でなにか思い出した様子で、ポンと手を打つ。
「栞が来たら渡そうと思って、母親に持ってきてもらってたんだ」
そう言いながら、枕元に床頭台の方に身を捩る。
「あ、なに?開けてよければ私取るよ?」
大きなお腹を庇うような彼女を気遣い、私は椅子から腰を浮かせながらそう言った。
「ありがとう。引き出しにDVDのディスクがあるの」
「……?これ?」
指示通りディスクケースを手に取り、裏表をひっくり返してみながら訊ねる。
「あ、それそれ。じっくり見てみて」
ディスクのラベルには、油性ペンで『連獅子・密着』と書かれている。
テレビ番組の録画をROMに落としたものと思われる。
「藤川さんが父親と初めて連獅子を演じた時の、密着ドキュメンタリー番組」
「連獅子って確か……本物の親子で演じる演目よね?」
「そうそう。藤川さんは初お目見えが二歳、初舞台はお兄さんと一緒に三歳の頃。それからたった五年で、お兄さんより先に大舞台を成功させたのよ」
「ふーん……」
演目の名を聞いてなんとなくわかる程度には勉強していたけど、優花の言葉のすごさは私にはあまりピンと来ない。
「気のない返事ねえ。そのくらいの頃の自分と比べてみなって。家のお手伝いするより友達と遊びたくなかった?しかもお手伝いは一月続くのよ?子供とはいえプロ意識がないと頑張れないわよ」
「…………」
そう続けられたらやけに説得力を感じて、私は口を噤んだ。
藤川園十郎という歌舞伎役者に対して、ちょっぴり好奇心がくすぐられたと言っていい。
普通のドラマや映画に出演しても十分な存在感があるであろうイケメンの彼が、何故今でも歌舞伎の女形であり続けるのか。
雑誌の対談で明言するほど嫌々だったにもかかわらず、今もその道を極め続けている、それはどんな心境の変化があったからなのか――。
私の興味がそこに駆り立てられ、彼への好奇心の方が上回った。
気づくと、先ほどまでの憤慨はすっかり治まっていた。
なにせ相手は、一般的にいっても由緒正しい名家の生まれの人だ。
品があるし、ぞんざいな対応をされたりもしていない。
けれど多分、優花の指摘通り、私は最初の掴みを誤ったのだろう。
口調は丁寧ながら常にどこか素っ気なく、もちろん会話が弾むことはなく順調とは言い難い状態。
私と彼の間には常時分厚いアクリル板が聳え立っているというか……感情面では塩対応、と言えば近いだろうか。
私が口をへの字に曲げて黙り込むと、優花は眉を八の字に下げた。
「まあ昔はどうあれ、今はたくさんの演目に引っ張りだこの人気役者。ファンの心を掴み続けるのは、藤川さんの歌舞伎役者としての信念が伝わるからでしょ」
「え?」
「八代目藤川園十郎は、今の歌舞伎界を率いる当代一の女形。皇族方も好んで観覧されるくらい、その演技には定評がある。生半可の覚悟でのし上がれる簡単な世界じゃないわよ、歌舞伎界って。……あ、そうだ」
言葉の途中でなにか思い出した様子で、ポンと手を打つ。
「栞が来たら渡そうと思って、母親に持ってきてもらってたんだ」
そう言いながら、枕元に床頭台の方に身を捩る。
「あ、なに?開けてよければ私取るよ?」
大きなお腹を庇うような彼女を気遣い、私は椅子から腰を浮かせながらそう言った。
「ありがとう。引き出しにDVDのディスクがあるの」
「……?これ?」
指示通りディスクケースを手に取り、裏表をひっくり返してみながら訊ねる。
「あ、それそれ。じっくり見てみて」
ディスクのラベルには、油性ペンで『連獅子・密着』と書かれている。
テレビ番組の録画をROMに落としたものと思われる。
「藤川さんが父親と初めて連獅子を演じた時の、密着ドキュメンタリー番組」
「連獅子って確か……本物の親子で演じる演目よね?」
「そうそう。藤川さんは初お目見えが二歳、初舞台はお兄さんと一緒に三歳の頃。それからたった五年で、お兄さんより先に大舞台を成功させたのよ」
「ふーん……」
演目の名を聞いてなんとなくわかる程度には勉強していたけど、優花の言葉のすごさは私にはあまりピンと来ない。
「気のない返事ねえ。そのくらいの頃の自分と比べてみなって。家のお手伝いするより友達と遊びたくなかった?しかもお手伝いは一月続くのよ?子供とはいえプロ意識がないと頑張れないわよ」
「…………」
そう続けられたらやけに説得力を感じて、私は口を噤んだ。
藤川園十郎という歌舞伎役者に対して、ちょっぴり好奇心がくすぐられたと言っていい。
普通のドラマや映画に出演しても十分な存在感があるであろうイケメンの彼が、何故今でも歌舞伎の女形であり続けるのか。
雑誌の対談で明言するほど嫌々だったにもかかわらず、今もその道を極め続けている、それはどんな心境の変化があったからなのか――。
私の興味がそこに駆り立てられ、彼への好奇心の方が上回った。
気づくと、先ほどまでの憤慨はすっかり治まっていた。