あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
*
その帰り道。
湊が突然言った。
「美月」
「なに?」
「俺さ」
「うん」
「病気になる前のこと、全部忘れてるわけじゃないんだ」
私は湊を見る。
「どういうこと?」
「写真を見れば思い出せることもある」
「うん」
「でも、思い出せないこともある」
「……何が?」
「今、俺が大切だと思ってる人のことも」
湊は前を向いた。
「いつか分からなくなるんじゃないかって」
その言葉が胸に刺さった。
私は小さな声で言った。
「……分からなくなっても、また教えるよ」
湊がこちらを見る。
「え?」
「名前とか。好きなものとか。思い出とか」
「……」
「何回忘れても、何回でも教える」
湊は少し驚いた顔をしていた。
そして、ふっと笑った。
「美月って、優しいね」
「普通だよ」
「ううん」
湊は首を振った。
「俺、昔から美月にこういうこと言われてた気がする」
「……」
「『何回でも教える』って」
私は驚いた。
「そんなこと、言った?」
「分からない」
湊は笑った。
「でも、そんな気がする」