あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
*
その夜。
湊は一人で部屋にいた。
机の上には、昨日の封筒。
『桜井美月へ』
湊はしばらく迷ったあと、封を開けた。
中には一枚の紙。
そこには、自分の字でこう書かれていた。
『この手紙を読んでいるということは、また忘れたんだと思う。』
『でも、怖がらなくていい。』
『美月はきっと、怒ってる。』
『たぶん、俺が突然いなくなったことを。』
『でも、どうか会ってほしい。』
『もう一度だけ。』
湊の手が止まる。
その下には、まだ文章が続いていた。
けれど――
そこだけ、何度も消した跡があった。
最後に残っていた一文。
『美月には、絶対に言ってはいけない。あの日のことだけは。』
「……あの日?」
湊は眉を寄せる。
何のことなのか分からない。
それなのに。
その言葉を見た瞬間。
頭の奥で、一瞬だけ映像が浮かんだ。
雨。
駅。
泣いている美月。
そして――
「……俺、何した?」
湊は頭を抱えた。
思い出せない。
でも、怖い。
自分が美月に何かをした。
そんな感覚だけが残っていた。