あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
翌日。

湊に連れてこられたのは、小さな本屋さんだった。

「ここ、よく来るの?」

「ううん。初めて」

「じゃあ、なんでここに?」

「美月が本好きだって言ってたから」

私は驚いて湊を見た。

「覚えてたの?」

「いや、昨日聞いた」

「あ……」

「でも、好きなものを知りたいんだよ」

湊は少し照れたように笑った。

「美月のこと、もっと知りたいから」

胸が熱くなった。

昔の湊も、私が好きな本を覚えてくれていた。

でも、今の湊は違う。

私のことを何も知らないところから、知ろうとしてくれている。

それが、たまらなく嬉しかった。

「じゃあ、これ」

私は一冊の本を手に取った。

「高校のとき、好きだった本」

「どんな話?」

「恋愛小説」

「美月らしいね」

「どうして?」

「なんとなく」

二人で笑った。

そのとき、湊が本の表紙を見つめた。

「……あれ?」

「どうしたの?」

「この本、知ってる気がする」

「本当?」

「うん。誰かに勧められたような……」

湊は眉を寄せた。

「誰だったかな」

私は何も言わずに待った。

思い出してほしい。

でも、無理はしてほしくない。

そんな気持ちが、心の中でぶつかり合っていた。

やがて湊は、ゆっくり顔を上げた。

「……美月?」

「うん?」

「俺、これ読んだら、何か思い出せるかな」

私は笑った。

「思い出せなくてもいいよ」

「え?」

「今度は、今の湊と一緒に読めるから」

湊は少し驚いて、それから優しく笑った。

「……そっか」

その笑顔を見た瞬間、私は思った。

過去を取り戻すことだけが、恋じゃない。

今、この人と過ごせる時間だって、大切な思い出になる。
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