あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
その日の夕方。
湊と別れたあと、私は駅前で莉奈に会った。
「……美月ちゃん?」
「あ、莉奈ちゃん」
偶然だった。
莉奈は少し驚いたあと、優しく笑った。
「湊と一緒だった?」
「うん。本屋さんに行ってたの」
「そっか」
少しの沈黙。
私は迷った末に、聞いてみた。
「莉奈ちゃんは……湊のこと、すごく大切に思ってるんだね」
莉奈はすぐには答えなかった。
そして、小さく笑った。
「うん。大切だよ」
その声は、思っていたよりもずっと真剣だった。
「湊が病気になったとき、最初は私もどうしたらいいか分からなかった」
莉奈は遠くを見つめた。
「何度も同じ話をしたし、約束を忘れられたこともある。私の名前が出てこなかったことだってあった」
「……」
「でも、湊はそのたびに謝るんだよね。覚えていられなくて、ごめんって」
莉奈は寂しそうに笑った。
「だから私は、謝らなくていいよって言い続けた」
私は何も言えなかった。
「湊が忘れても、私が覚えていればいいって思ってたから」
その言葉が、胸に刺さった。
それは、私が湊に伝えたいと思っていた言葉と同じだった。
「……莉奈ちゃん」
「ごめんね。こんな話、急に」
「ううん」
私は首を横に振った。
「話してくれてありがとう」
莉奈は少し迷ったあと、私に尋ねた。
「美月ちゃんは、湊と付き合ってたんだよね?」
私は驚いて顔を上げた。
「……どうして?」
「湊がね、前に一度だけ話してくれたことがあるの」
「私のこと?」
「うん」
莉奈は笑った。
「高校時代に、どうしても忘れられない女の子がいるって」
息が止まりそうになった。
「その子のことを考えると、幸せなのに苦しくなるんだって」
私は俯いた。
「……そうなんだ」
「だから、会えてよかったね」
莉奈はそう言った。