あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
三十分後。

駅前のカフェ。

湊が店に入ると、莉奈は窓際に座っていた。

「ごめん、急に」

「大丈夫。何かあった?」

莉奈は首を横に振った。

「ううん。ちょっと話したくて」

「そっか」

二人はしばらく、他愛もない話をした。

病院のこと。

最近の仕事のこと。

昔、大学で一緒に食べたご飯のこと。

いつもと同じ会話。

いつもと同じ時間。

なのに、莉奈は少しずつ苦しくなっていった。

「……湊」

「ん?」

「最近、美月ちゃんとよく会ってるね」

湊は頷いた。

「うん」

「楽しい?」

「うん。すごく」

迷いのない答えだった。

莉奈は笑おうとした。

でも、うまく笑えなかった。

「……そっか」

「莉奈?」

「私ね」

莉奈はテーブルの上で手を握りしめた。

「湊のこと、ずっと好きだったんだ」

湊の表情が止まった。

「……え?」

「友達としてじゃなくて、一人の男の人として」

莉奈は涙をこらえながら笑った。

「ずっと前から、好きだった」

湊は何も言えなかった。

「病気になってからも、そばにいたいと思った。湊が何を忘れても、私だけは覚えていようって思ってた」

「莉奈……」

「でもね」

莉奈の目から、涙が落ちた。

「湊が会いたかったのは、私じゃなかった」

「……」

「美月ちゃんだったんだね」

湊は俯いた。

莉奈は慌てて涙を拭った。

「ごめんね。困らせるつもりじゃなかったの」

「……ごめん」

湊が言った。

莉奈は首を振った。

「謝らないで」

「でも……」

「湊が悪いんじゃないよ」

莉奈は笑った。

「私が勝手に好きだっただけだから」

そう言って、席を立った。

「今日は聞いてくれてありがとう」

「莉奈、待って」

莉奈は振り返った。

「……なに?」

湊は言葉を探した。

でも、何も言えなかった。

莉奈を傷つけたくない。

それは本当だった。

だけど。

今、莉奈に何かを約束することもできなかった。

莉奈はそんな湊を見て、静かに笑った。

「……うん。分かってる」

そして、店を出ていった。
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