あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
「……ねえ、美月」
「ん?」
「今度、二人でご飯行かない?」
「え? いいけど……」
「よかった」
颯は、いつもの明るい笑顔を見せた。
「じゃあ、連絡する」
そう言って歩き出す。
数歩進んだところで、颯はふと足を止めた。
「……あ、そうだ」
振り返った彼は、少しだけ真剣な顔をしていた。
「美月」
「何?」
「その人のこと、本当に好きなんだね」
私は迷わずうなずいた。
「……うん。大好き」
颯は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
それから、いつもの笑顔に戻る。
「そっか」
たった一言。
それなのに、どうしてだろう。
その笑顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
「じゃあ、またな」
颯は手を振って、人混みの中へ消えていった。
私はその背中を見送りながら、首をかしげた。
……どうしたんだろう。
そう思ったけれど、深く考えることはしなかった。
そのときの私は、まだ知らなかったから。
颯が、私のことをどんな気持ちで見つめていたのか。
そして。
私が湊を好きでいればいるほど、近くにいる誰かを傷つけてしまうことも。
まだ、何も知らなかった。