あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
湊との待ち合わせ場所に着くと、彼は駅前のベンチに座っていた。

私を見つけると、ほっとしたように立ち上がる。

「美月」

「湊! どうしたの? 何かあった?」

湊は首を横に振った。

「……何かあったわけじゃないんだ」

「うん」

「ただ、今日は朝からずっと、美月に会いたくて」

その言葉に、胸が熱くなった。

「……私も会いたかったよ」

そう答えると、湊は少し照れたように笑った。

でも、すぐに表情が曇った。

「……変なこと聞いてもいい?」

「うん。何?」

「今日、美月は何してたの?」

一瞬、迷った。

でも、隠す理由なんてない。

「大学の友達とご飯に行ってたよ」

「男の人?」

「うん。颯っていう、大学時代の友達」

湊は小さくうなずいた。

「……仲いいんだ?」

「うん。すごく優しい人だよ。昔から、私のことをよく知ってくれてて」

そこまで話して、ふと湊を見る。

彼は、笑っていなかった。

「……湊?」

「ん?」

「どうかした?」

湊は少しだけ困ったように笑った。

「……いや」

そして、ぽつりとつぶやいた。

「なんか、嫌だなって思っちゃった」

「え?」

「美月が、俺の知らない男の人と楽しそうにしてるの」

心臓が大きく跳ねた。

湊は自分でも驚いたように目を伏せた。

「ごめん。こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど」

「……嫉妬、してくれたの?」

思わず聞いてしまった。

湊は顔を上げ、少しだけ耳を赤くした。

「……たぶん」

「たぶんって何それ」

笑いながら言ったけれど、目の奥が熱くなった。

嬉しかった。

どうしようもなく、嬉しかった。

記憶がなくても。

昔の私を覚えていなくても。

今の湊は、私を好きになろうとしてくれている。

私がほかの誰かといることを、嫌だと思ってくれた。

それだけで、胸がいっぱいだった。
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