あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。

第2話「はじめまして、から」

「じゃあ、これからよろしくね、わたしは美月」

そう言った私に、湊は笑った。

「うん。よろしく、美月」

たったそれだけの言葉なのに。

胸の奥が、どうしようもなく痛かった。

三年前なら。

このあと湊は、私の頭を軽く撫でて、

「よろしくって、もう付き合ってるじゃん」

なんて笑っていた。

でも今の湊は、何も知らない。

私たちが恋人だったことも。

初めて手を繋いだ日も。

初めて喧嘩した日も。

私が泣いたとき、いつも何も言わずに隣にいてくれたことも。

全部。

「美月?」

「……え?」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫」

私は笑った。

「じゃあ、そろそろ帰るね」

「うん」

カフェを出ようとしたときだった。

「待って」

湊の声がした。

振り返る。

「連絡先、交換しない?」

一瞬、息が止まった。

「……いいの?」

「うん」

湊はスマートフォンを取り出した。

「せっかく久しぶりに会えたし」

――久しぶり。

その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

私にとっては三年ぶり。

でも湊にとっては、

「誰だか分からない人との再会」

なのだから。
< 6 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop