あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
カフェを出たあと、私は近くの公園まで歩いた。
ベンチに座り、顔を覆う。
涙が、次から次へとあふれてくる。
湊に会いたい。
今すぐ会って、抱きしめたい。
大好きだって伝えたい。
でも、怖い。
湊が私を忘れてしまうことが。
いつか、私の名前さえ思い出せなくなることが。
私が手を伸ばしても、知らない人を見るような目で見つめられることが。
それでも、そばにいたいと思ってしまうことが。
何よりも、怖かった。
「……どうしたらいいの」
誰に向けたわけでもない言葉が、こぼれ落ちた。
そのとき。
「……美月?」
聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、そこには颯が立っていた。
「……颯?」
「何してんの、こんなところで」
颯は笑いかけようとして、私の顔を見て言葉を止めた。
「……え、ちょっと」
慌てて私の隣に座る。
「どうした? 何かあった?」
私は首を横に振った。
「……何でもない」
「何でもない顔じゃないだろ」
いつもなら、少し笑ってごまかせたかもしれない。
でも、今は無理だった。
颯の顔を見た瞬間、また涙があふれてきた。
「……ごめん」
「いや、謝んなくていいから」
颯は困ったように眉を下げた。
「何があった?」
私は、しばらく何も言えなかった。
湊の病気のこと。
莉奈から聞いた話。
これから先が怖いこと。
全部話してしまいたかった。
でも、湊のことを勝手に話していいのかわからなかった。
だから私は、ただ一言だけ口にした。
「……好きな人のことが、怖くなっちゃった」
颯の表情が変わった。
「……そっか」
それだけ言って、彼は黙った。
無理に理由を聞こうとはしなかった。
ただ、私が泣き止むまで、隣にいてくれた。
その優しさが、余計に涙を誘った。