あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
翌日。
待ち合わせ場所に着くと、湊はすでに来ていた。
私に気づくと、少し照れたように笑う。
「美月」
名前を呼ばれただけで、胸がいっぱいになる。
「待った?」
「ううん。今来たところ」
「絶対うそだ。俺、結構前からいたよ」
「えっ、なんでわかるの?」
「なんとなく」
湊は得意げに笑った。
その表情が、懐かしかった。
私の知っている湊。
優しくて、少し意地悪で、私が困ると嬉しそうに笑う人。
でも、今の湊は、私の知らない時間も生きている。
私が知らない場所で、病気と向き合ってきた。
私の知らないところで、何度も怖い思いをしてきた。
そう思うと、笑顔の裏に隠された彼の苦しさまで知りたくなってしまう。
「……美月?」
「え?」
「どうしたの? なんか、すごく真剣な顔してる」
「あ、ごめん。なんでもない!」
慌てて笑うと、湊は少しだけ首を傾げた。
「そっか」
それから、私の顔をじっと見つめる。
「でも、今日会えてよかった」
「……どうして?」
「なんとなく、会いたかったから」
そんなの。
私だって、同じだよ。
私たちは、駅から少し離れた小さなカフェに入った。
窓際の席に座り、私はカフェラテを、湊はコーヒーを注文した。
他愛もない話をする。
大学のこと。
最近見た映画のこと。
帰り道に見つけた新しいお店のこと。
そんな普通の会話が、どうしようもなく愛おしかった。