あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
カフェを出たあと、私たちは近くの公園を歩いた。
秋の風が吹き、木々の葉が揺れている。
湊が、ふいに立ち止まった。
「美月」
「ん?」
「ひとつ、お願いしてもいい?」
「なに?」
湊は少し迷ってから、口を開いた。
「これから、俺が何か忘れちゃったとき……ちゃんと教えてほしい」
「……うん」
「昔の俺が何を好きだったとか、どんなことを言ったとか。俺が覚えていないことを、教えてほしいんだ」
私はうなずいた。
「もちろん」
「でも、ひとつだけ」
湊は私を見つめた。
「昔の俺がどうだったかだけじゃなくて、今の俺がどうしたいかも、ちゃんと聞いてほしい」
その言葉に、私は息をのんだ。
「昔の俺と比べて、無理に同じにしようとしなくていい。今の俺が好きなものを、これから見つけていきたいから」
そして、彼は少し照れたように笑った。
「美月と一緒に」
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
私は何度もうなずいた。
「うん。一緒に見つけよう」
「約束ね」
「約束」
私たちは、小指を絡めた。
いつか、この約束を湊が忘れてしまう日が来るかもしれない。
それでも。
今日、二人で交わした約束は、確かにここにあった。