恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
夜の生ぬるい風が頬を撫で、帰宅を急ぐサラリーマンたちの足音が忙しなく耳を叩く。
階段を下りようと足を踏み出しかけた、その時…。
視界の端に、明らかに周囲の通勤客とは異なる異質な存在感を放つ影が映り込む。
和香の足が、まるで地面にぴたりと止まる。
「…か、神楽坂さん?」

街灯の明かりの下、グレーの洗練されたスーツを着こなした長身の男が立っていた。
和香の視線に気づくと、神楽坂はぱっと顔色を輝かせ、ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる。
対照的に、和香の眉間には警戒心に満ちた深いシワが刻まれた。
「……な、なんでここに!?」
「あなたを待っていたんですよ。彼は一緒にいないようですね。ちょうど良かった」
神楽坂は周囲を一度だけ見回すと、安堵したような息を漏らした。
「待ってたんですか?何故?」
「あなたに会いたくなったからです」
和香は気圧されそうになりながらも強く言い返した。
「え……っ、いや、でも、そういうことなら、事前に電話くらいしてくれないと困ります」
「電話をしたら、あなたは理由をつけて断るでしょう?直接会うのが一番確実ですからね」

神楽坂は和香の目の前まで詰めてくると、薄い口唇の端をすっと持ち上げた。
でも、今まで和香に見せていた胡散臭い作り笑いはなく、そこにあったのは自然な綺麗な笑みだった。
だからこそ、その奥に秘められた意図が読めず警戒心が強まった。
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