恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
加えて、社内の人間が絶え間なく行き交うこの食堂で、帆高と真っ正面から向かい合って食事を摂るという状況そのものが、和香の神経を擦り減らす。
周囲の視線が背中に刺さるような心地がして、とても落ち着いて箸を動かせそうになかった。
対する帆高は、同じ白身魚のフライに箸をつけながら、美しい背筋を一切崩すことなく、優雅と言ってもいい仕草で口へと運んでいる。
その立ち振る舞いには一切の無駄がなく、周囲のざわめきすら彼を彩る背景の一部に変えてしまっているようだった。
「まさか、忘れてないですよね」
「わ、忘れてない!忘れるわけないよ。うん……」
揺れる焦りを悟られまいと、和香は慌てて頷いてみせる。
「それならいいですけど。あ、そうだ。デートの時は下の名前で呼んでくださいね」
「……え?それは…む、難しいっていうか」
唐突な提案に、和香の胸が跳ねた。
職場での呼び方に慣れきった口唇で、彼の名前を気易く呼ぶことへの気恥ずかしさが一気にこみ上げる。
「ご両親への挨拶の時に、苗字呼びだと違和感ありませんか?相手を騙す前に、一発で偽物だとバレてしまいますよ」
帆高は静かな声で淡々と正論を口にする。
確かに彼の言う通りだ、と納得する反面、もし社内でうっかり下の名前で呼んでしまったら……という懸念が頭をよぎる。
そんな和香の迷いを察したのか、帆高は箸を止め、まっすぐな瞳を和香の顔に向けたまま言いのけた。
「社内でも付き合っていること、無理に隠す必要はないと思うんですよね」
「ちょっと待って!付き合ってないから!」
食い気味に否定した和香の声が思いのほか大きくなり、彼女は慌てて周囲の目を気にして口を噤んだ。体を乗り出すようにしてムキになる和香に対し、帆高はただ長い睫毛を伏せ、すっと目を細めて彼女を見つめてくる。
その深く静かな瞳の奥で、彼が何を考えているのか、今の和香にはまったく読み取ることができない。
周囲の視線が背中に刺さるような心地がして、とても落ち着いて箸を動かせそうになかった。
対する帆高は、同じ白身魚のフライに箸をつけながら、美しい背筋を一切崩すことなく、優雅と言ってもいい仕草で口へと運んでいる。
その立ち振る舞いには一切の無駄がなく、周囲のざわめきすら彼を彩る背景の一部に変えてしまっているようだった。
「まさか、忘れてないですよね」
「わ、忘れてない!忘れるわけないよ。うん……」
揺れる焦りを悟られまいと、和香は慌てて頷いてみせる。
「それならいいですけど。あ、そうだ。デートの時は下の名前で呼んでくださいね」
「……え?それは…む、難しいっていうか」
唐突な提案に、和香の胸が跳ねた。
職場での呼び方に慣れきった口唇で、彼の名前を気易く呼ぶことへの気恥ずかしさが一気にこみ上げる。
「ご両親への挨拶の時に、苗字呼びだと違和感ありませんか?相手を騙す前に、一発で偽物だとバレてしまいますよ」
帆高は静かな声で淡々と正論を口にする。
確かに彼の言う通りだ、と納得する反面、もし社内でうっかり下の名前で呼んでしまったら……という懸念が頭をよぎる。
そんな和香の迷いを察したのか、帆高は箸を止め、まっすぐな瞳を和香の顔に向けたまま言いのけた。
「社内でも付き合っていること、無理に隠す必要はないと思うんですよね」
「ちょっと待って!付き合ってないから!」
食い気味に否定した和香の声が思いのほか大きくなり、彼女は慌てて周囲の目を気にして口を噤んだ。体を乗り出すようにしてムキになる和香に対し、帆高はただ長い睫毛を伏せ、すっと目を細めて彼女を見つめてくる。
その深く静かな瞳の奥で、彼が何を考えているのか、今の和香にはまったく読み取ることができない。