恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 廊下に出ると、神楽坂は何事もなかったかのようにスタスタと余裕ある大股で歩いていた。
その背中に向かって、和香は思い切って声をかけた。

「あのっ…、神楽坂さん!」

足を止めた神楽坂が振り返る。

「ああ、和香さん。すみませんでしたね、海さんの件も」
「……まあ、それは許していませんけど。勝手に海に接触したりして……」
「あはは、外堀から埋めて逃げ道をなくそうと思いましてね。ただ、不思議ですね。ビジネスにおける私の勘や感覚は、これまで一度だって外れたことがなかったのに。あなただけは、私の描くピースにまったく嵌まってくれませんでした。どうしてなんでしょうね、本当に……」

 そう呟いた神楽坂の目元に、ほんの一瞬だけ、どこか切なく寂しげな色が影を落とした。
しかし、彼はすぐにいつもの不敵で余裕のある笑みを唇に浮かべ直す。

「あなたは以前、私に言いましたよね。『いつか心から好きになれる人が現れるといいですね』と。ええ、現れてしまったんですよ。あなたという人が」
「……っ」

 その言葉が出た瞬間、隣にいた帆高が瞬時に和香の肩を抱き寄せる。
そんな二人の反応を、神楽坂はどこか面白そうに、満足そうに眺めながら首を横に振る。

「そう警戒しないでください、久東くん。大丈夫ですよ、私はもうとっくに諦めていますから。君には完敗です。潔く引き下がりますよ」
「……神楽坂さん」
「お幸せに。ああ、それから、」

 車へ乗り込もうとした神楽坂が、最後にふと立ち止まり、和香の方を振り返った。

「あの日、二人で見上げた月は……きっと、この先も忘れることはないでしょう」

 どこか吹っ切れたような穏やかな表情で口角を上げると、神楽坂はそのまま背を向け、車に乗り込んで去っていった。

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