恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
――休日

「デートなんて、何年ぶりだろう……」

 鏡の前に立った和香は、胸元に当てたワンピースの位置を何度も微調整しながら、困惑気味に首を傾げていた。
あまり気合を入れすぎていると思われるのも嫌だし、かといって格好がつかないのも気まずい。
 “仮の恋人”として出かけるだけで、本物のデートではないのだ。かといって、普段オフィスに着ていくようなカチッとしたブラウスやタイトスカートを着ていくのも、休日としては不自然すぎる。
迷いに迷った挙句、和香はしなやかな生地感の薄いキャメル色のロングワンピースに腕を通した。

「……別に、特別な意味なんてないんだから!」

 自分に言い聞かせるように鏡の中の自分へ力強く宣言する。
 仕事の日はいつも髪をひとつに束ねたポニーテールで出社しているが、今日は休日ということもあり、肩にかかるセミロングの毛先をヘアアイロンで軽く外ハネに巻いてみた。頬には肌なじみの良いコーラルのチークを薄くのせ、仕上げにやわらかな艶のある口紅を丁寧に引く。
 そうしていつも以上に念入りに鏡と向き合ってしまったせいで、気づけば家を出る予定時刻のギリギリになってしまっていた。
 慌てて自宅を飛び出し、ガタゴトと揺れる電車に身を委ねて日比谷駅へと向かう。

 地上へと続く階段を上り、休日の陽光が注ぐ改札前へ出ると、そこは休日を楽しむ多くの人々で行き交っていた。

 映画館へ足を運ぶなんて、一体いつ以来だろう。連日の仕事と実家からの重圧に追われ、すっかりスクリーンから遠ざかっていた日々を思い出す。

人混みの少し外れた場所で、スマホに視線を落とす高い背格好の男が立っていた。

「ごめんね! 待たせちゃった?」

 息を弾ませながら駆け寄ると、帆高はゆっくりと顔を上げ、和香の姿を視線でなぞるように捉えた。

「いいえ、今来たところです」
「絶対ウソ。私、集合時間の三分前だよ?」
「……分かります?楽しみすぎて、一時間近く前に着いてしまっていたんです」
 冗談めかしてそう言って柔らかく微笑む帆高の私服姿に、和香は密かに息をのんだ。
落ち着いたネイビーのノーカラーシャツに、仕立ての良いスラックス。
 決して派手でも奇抜でもないシンプルな装いなのに、群衆の中で嫌でも目を引いてしまう。
 モデルのようなスラリとした長身と立ち姿の美しさが、何気ない私服を極上の装いに変えているのだ。
きっと彼なら、その辺の無地Tシャツとデニムを穿いているだけでも様になってしまうのだろうな、と妙な感心をしてしまう。
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