恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
 レストランを出ると、夜の街には少しひんやりとした秋の風が吹き抜けていた。
心地よいアルコールと美味しい料理の余韻に包まれながら歩いていると、すっと和香の手のひらに温かい体温が重ねられた。
指と指がゆっくりと深く絡められ、ごく自然な動作で恋人繋ぎにされる。

「へ?……っ」

 ドキリと胸が跳ね上がった。
ただの『恋人のフリ』のはずなのに、触れ合っている手のひらから伝わる熱がジワジワと全身へ広がっていく。
 職場の後輩に対して、こんな乙女フラグが立ったような甘い感情を抱いてしまうなんて、そう自分に言い聞かせ、動揺を隠そうと俯いた瞬間だった。

「……和香さん」

 低く甘い声と共に、ぐっと強く腕を引かれた。
気づいた時には、街灯の影になる壁際に押し込まれるようにして、帆高の広い胸の中にすっぽりと抱きしめられていた。

「え、ちょっと……久東、くん……!?」
「静かに。……少しだけ、このままでいさせてください」

 背中に回された腕にぎゅっと強い力が込められる。
上着の布地越しに伝わってくる彼の鼓動は、驚くほど速く、そして力強かった。
 困惑と、耳元で響く彼の熱い息遣いに対する甘いドキドキが頭の中で激しく交差する。身体を離そうにも、彼の力強い腕に捉えられて身動きが取れない。
まさにその時だった。

「あれ?帆高くん……?それに、和香さん?」

 通りに響いた高めの鈴を転がすような声に、和香の全身の血が凍りついた。
咄嗟に帆高の胸を押し弾き、繋がれていた手を振り払おうとする。だが、帆高は和香の手を離すどころか、見せつけるかのように指の力をさらに強く込めて固く握り直した。

「久東くん、手……っ!」
「なんですか」

 静かな声で素っ気なく拒絶され、和香が顔を青くして冷や汗を流す前方に立っていたのは、同じチームの後輩である橋川ののかだった。
 休日の私服姿の彼女は、まるでファッション誌の表紙から抜け出してきたかのように華やかで美しい。
 帰国子女で複数の言語を自在に操るバイリンガル。実家は大企業の社長で、生粋の令嬢。 完璧な容姿とキャリアを兼ね備えた彼女は、社内中の男性社員からアプローチを受け続けている高嶺の花だった。
 ののかの視線が、二人の固く繋がれた手元に留まる。
その美貌が一瞬で凍りつき、冷ややかな色を帯びた。

「……お二人で、こんなところで何しているんですか?まさか、付き合ってらっしゃるとか?」

 刺すような鋭い視線を向けられ、和香が焦って言い淀む。
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