恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
「あ、ええと……これはね、違うの!そういうのじゃなくて」
「そうだよ」

 和香の言い訳をバッサリと遮るように、帆高が冷淡な声で言い放った。
ののかを見る彼の瞳には、普段社内で見せるような愛想の良さは微塵もなく、氷のように冷ややかな光が宿っている。

「俺たち、付き合ってるから。見ればわかるでしょ」
「……へぇ。帆高さんって誰とも付き合わないと思ってたのに。意外~。ていうか、帆高さんの趣味って和香さんなんですね」

嫌味を孕んだののかの言葉にも、帆高は表情一つ変えずに言い返した。

「そうだよ。……ようやく手に入れた」

 揺るぎない帆高の低音に、ののかは悔しそうに美貌を歪め、唇を深く噛み締めた。
だが、そのやり取りの最中、和香の頭の中は激しいパニックに陥っていた。

(社内でこのことがバレたらどうするの……?だって私たち、本当の恋人じゃないのに……いつかは終わる関係なのに)

 和香は動揺のあまり、咄嗟に曖昧な態度をとってしまった。

「あ、あのね!橋川さん、これはその、ちょっとした事情というか……違うの。だから勘違いしないで……っ」

 これ以上大事にしたくないという一心で発した和香の言葉。
だがその瞬間、和香の手を握る帆高の指先がピクリと強く強張った。
 帆高がゆっくりと和香へと視線を向ける。その瞳の奥には、見たこともないような黒く渦巻く苛立ちと焦りの色が浮かんでいた。

「……行きましょう」
「えっ、あ、ちょっと……!?」

 ののかの反論を聞くこともなく、帆高は無言のまま強い力で和香の手を引いて歩き出した。

「今のどういうこと!?」

 背後から追いかけてくるののかの金切り声。だが、帆高は一度も振り返ることなく、長い脚で夜のストリートを突き進んでいく。
 何が起こったのか分からず、引きずられるようにして必死に彼についていく。
やがて、駅の改札口へと続く、人通りの少ない高架下の影に入った瞬間だった。
ぐっと腕を引っ張られ、和香の背中が高架の冷たいコンクリート壁に押し付けられた。
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