恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 何故自分が、こうも簡単に帆高の自宅へ行くことを了承してしまったのか。自分でもよく分からない。
けれど、今のこの押し潰されそうな焦燥感と、ぐちゃぐちゃに絡まった複雑な感情を、彼ならすべて受け止めてくれる…―そんな無根拠な確信と甘えが、自分の胸の奥にあったのは確かだった。

 人は誰しも、一生のうちに一度くらい、理性を捨てて誰かに無条件で寄りかかりたくなる時があるのだと、自分に言い訳するようにして。

 社内の誰かに見られるリスクを避け、電車は使わずにタクシーを拾った。 夜の首都高を滑るように走り、到着したのは都内有数の高級住宅街だった。
街灯の光が静かに広がる一角に佇む、洗練された外観の築浅タワーマンション。
 一人暮らしであるにもかかわらず2LDKという十分すぎる広さを誇り、エントランスには24時間体制のコンシェルジュが常駐しているような、一目で本物と分かるハイグレードな住まいだった。

(うちの会社、確かに家賃補助はかなり出る方だけど……それにしても、いいマンションだなぁ)

 帆高の思わぬ生活水準の高さに感心し、意識を余計な方へ向けようとしていた和香だったが―…重厚な玄関のドアをくぐり、カチリと鍵が閉められた瞬間、意識は強制的に目の前の現実へと引き戻された。

「お、おじゃまします……」
「どうぞ、入ってください。すみません、あんまり綺麗にしていないかもしれませんけど」

 いい年をした大人の男女が、夜に異性の自宅へ上がり込むということ。その先に待ち受けているかもしれない意味を、知らないわけがなかった。
 だが、その覚悟が今の自分にあるのかと問われれば……力強く頷くことなんて、到底できない。

 和香は緊張で強張る体をなだめながら、脱いだパンプスを綺麗に揃え、ゆっくりと帆高の背中の後を追った。

 綺麗じゃない、なんていう彼の言葉は謙遜以外の何物でもなかった。
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