恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 彼は一歩前に出ると、背筋をピンと伸ばし、圧倒的な存在感を放ちながら和香の父親の正面に立った。

「初めまして、久東帆高です。和香さんと真剣にお付き合いをさせていただいています」

微塵の揺らぎもない、真っ直ぐで力強い声。

「肩書きや立場ではありません。僕にとって、和香さんが不可欠な存在だから隣にいます。お許しをいただけないとしても、僕が彼女の手を放すつもりはありません」

 帆高の真っ直ぐな言葉に胸が締め付けられた。
自分を守るため、そしてこの理不尽な状況に立ち向かうためだけに発せられた彼の言葉。
 嘘の恋人―…、ただの時間稼ぎの約束だったはずなのに、和香の胸は熱く、激しく震えた。

「なるほど…。はは、青いですねぇ」

 その熱気をあざ笑うかのように、静観していた神楽坂が低い嘲笑を漏らした。
神楽坂は立ち上がると、帆高との体格差を感じさせない威圧感で薄く微笑んだ。

「結婚とはね、君。愛や情ではなく“ビジネス”なんですよ。我が社と彼女の実家が組むことで生み出される利益、それこそが真の価値だ」

 神楽坂は和香へと視線を送り、執着の籠もった目を細める。

「彼女は、私と結婚するのが一番幸せなんです。そうでしょう?」

 完全に二人の関係を見下し、政略結婚の価値を説く。
父親も「神楽坂くんの言う通りだ。身の程を知れ」と取り合おうとしない。
結局、平行線のまま平行線をたどり、両親から認められることはなかった。
応接室を去る際、神楽坂はすれ違いざまに和香へ向けて、崩れることのない余裕の笑みを浮かべた。

「それでは和香さん、また近いうちに会いましょう。……じっくり、お話ししましょうね」

和香はぎゅっと下唇を噛み締め、神楽坂から目線だけを逸らしてその場をあとにした。
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