恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
「あれ? 久東くん? どうしたの、こんなところで」

声をかけながら近づくと、帆高も軽く手を振り返して歩み寄ってきた。

「待ってたんです」
「え?……誰を?」
「水瀬さんを、です」
「……何故?」
「いくら『仮の恋人』とはいえ、ご両親への挨拶の際によそよそしかったら一発で怪しまれますよ。だから、今から恋人同士の練習をしましょう」
「……いやっ!それは……そこまでしなくても……」

 慌てて断ろうとしたが、吹き抜けのエントランスは意外と声が響くことに気づく。
 和香は周りの目を気にして「とにかく移動しよ!」と、とりあえず帆高を連れてビルを出た。
夜風の吹き抜ける通りに出ると、和香は困ったように眉尻を下げて訴えた。

「あくまで“フリ”なんだから、わざわざこんなことまでしなくていいよ…」
「ご両親に怪しまれて、政略結婚を押し切られたら元も子もないでしょう?」

 帆高はふっと目線を合わせるように、少しだけ体を屈めて和香の顔を覗き込んできた。
 至近距離で重なる視線。街灯の光に照らされた彼の顔立ちは恐ろしいほど整っていて、呼吸が止まりそうになる。

ここ数年、恋愛から遠ざかっていた和香にとって、不意打ちの接近はあまりにも心臓に悪い。胸の奥が鼓膜に響くほどの早鐘を打ち始める。

「僕たちは“真剣交際している恋人”なんです。これくらい距離感に慣れてもらわないと困ります」
「……っ、わ、分かったから!でも、社内で変な噂が流れたら面倒だし、エントランスで堂々と待つのはやめてくれる?」
「分かりました。…僕としては、社内で噂が流れても全然構わないんですけどね」
 意味深に微笑む帆高の余裕な雰囲気に呑まれないよう、和香もぐっと顎を上げて強気を見せようとした。

「じゃあ、さっそく夕食でも食べに行きましょうか」

しかし、あっさりとそう言われてしまい、和香は「えっ、今から!?」と結局狼狽えてしまうのだった。
< 6 / 26 >

この作品をシェア

pagetop