恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 すべてを打ち明けると、和香はまるで憑き物が落ちたように安堵の笑みを浮かべた。
 ふとキッチンへ目をやると、ふんわりと甘いカレーの匂いが漂っている。
彼女が自分の帰りを信じて、ずっと作って待っていてくれたのだ。洗面所の奥からは温かい湯気が立ち上っており、お風呂まで用意されていた。
 ののかとの疑惑に心を痛め、一人で不安に押し潰されそうになっていたはずなのに。それでも和香は、自分のためにこうして甲斐甲斐しく準備をして待っていてくれたのだ。

「すみません。全部、俺が悪いんです」
「ううん、良かった……。私も、もっと早く素直に確認すればよかったんだよね……」
「いいえ、俺の配慮が足りなかったんです。和香さんに余計な心配をかけたくなくて口を閉ざしていましたが……それが完全な悪手でした。本当に、すみません」
「ふふ、じゃあこれで仲直りだね」

 和香は柔らかく微笑むと、ホッとしたように息を吐いた。
 その穏やかな表情に救われつつも、帆高の胸の奥にはもう一つ、どうしても確かめなければならない引っかかりが残っていた。

「……和香さんは、神楽坂と何を話していたんですか?」
「えっと……昨日は急に呼び出されたの。あっちがどういう思惑で動いているのか、もっと深く知っておいた方がいいと思ったし、どういう出方をしてくるのかも探りたくて……だから、レストランで会ったんだよ」
「探るために……」
「うん。でも本当に、ただ食事をして話をしただけで終わったよ。ただ、神楽坂さんは海の居場所を知っていた。きっと今後、交渉の手札として使ってくると思う」
「なるほどね……」

 海の居場所まで特定されているとなると、神楽坂の動きもいよいよ本格化してきたということだ。

「でもね、あの人はおそらくビジネスとして私と結婚したいだけで……なんていうか、すべてがビジネス脳というか、利害関係ばかり気にしている人なんだよね。……でも、もしそれがなければ、普通にいい人なんだろうなって」
ふと過去を振り返るように、和香がぽつりと呟いた。

――普通にいい人。

 その言葉が部屋の静寂に落ちた瞬間、帆高の中で、ピンと張り詰めていた理性の糸がぶつりと切れた。

「……普通にいい人、ですか」

 低く冷ややかな声が落ち、和香がハッと顔を上げた時には、すでに逃げ場は失われていた。

「帆、高くん……?」

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