春雷ブロッサム

その男性は黒髪を揺らしながら、ふとこちらに視線を向けた。
前髪の隙間から覗かせるクールな瞳はわたしを見下ろし、その瞳にドキッとさせられてしまう。

そして今気が付いたのだが、その男性は電車の扉に右手をつけ、まるで周りの人たちからわたしを守るような体勢を取っていたのだ。

「―――あいつ、警察に突き出しますか?」

気怠そうな低い声が響く。
わたしは驚き、目を丸くしながら「―――えっ?」と間抜けな声を出した。

すると、その男性は小さく首を振りながら、わたしがさっきまで立っていた方を視線で指しているようだった。

「痴漢、されてましたよね」
「えっ···、あぁ···」
「···どうします?」

低いその声には、微かに苛立ちを感じた。

(わたしがハッキリしないから、苛立たせてしまってる?)

そう思ったわたしは、慌てて「いえ!大丈夫です!」と返事をした。

そしてわたしがそう返事をした直後、多少の揺らぎと共に電車は停まった。
次の駅に到着したのだ。

すると、電車の扉に手をついていた男性の手は、わたしを包み込み、流れるように下車していく人々や、その後に乗車してくる人々の波から身を守ってくれた。
わたしは大人しく男性に守られながら、電車が発車するのを待っていたのだが、内心は心臓がバクバクと音を立て、かなり動揺していた。

それから再び動き出す電車。
男性は、また電車の扉に手を付き、先程と同じようにわたしの盾になってくれた。

「降りる駅、どこですか?」

周りの様子を警戒しながら、男性は言った。

(わたしに、訊いてるんだよね···?)

そう思いながら、わたしは「美園です」と答えた。

わたしがそう答えてから、男性は何も話さなくなり、黙ってわたしを守り続けてくれた。
順に駅に到着していき、乗車人数が減ってきてもそれは変わらなかった。
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