春雷ブロッサム

わたしを見下ろす彼は微かに目を細め、「今気づいたんですか?」と言った。

「あ!ごめん!さっきまで色々あって動揺してたから···」
「そうだとしても、俺が知らない男だったら、家まで送るって、それはそれで危ないって気付かなかったんですか?」

最もな凪原くんの発言に「それは、確かに···」と反省する。

彼は、同じ会社の凪原泉(なぎはら いずみ)くん。
開発部の確か25歳。

この若さにして開発部の中心となり、今世間で注目されている"セレストブルー"という洗顔料の開発者だ。
"セレストブルー"は、敏感肌向けに開発されたが、爽やかな柑橘系の香りに泡立ちも良く、毛穴が目立ちにくくなったり、肌に透明感が出るようになったりと、目にも染みにくいように作られており、幅広い年齢層から人気なのだ。

それに加え、この容姿―――
女性社員からの人気はもちろんだが、上司たちからも可愛がられている。
そんな社内で有名な凪原くんにわたしは今の今まで、どうして気付かなかったのだろう。

「まあ、いいや。家の方向、こっちで合ってます?」

凪原くんはそう言って、真っ直ぐわたしの自宅方面に指を差した。

「うん」
「じゃあ、行きましょう」

そう言って再び歩みを進める凪原くんに、そのあとをついて行くわたし。

何だか、彼が凪原くんと分かってから妙にドキドキしてしまう。
あんなに会社で注目され、超がつく程のモテっぷりの年下男子に家まで送ってもらえるなんて、まさかバツイチのこのおばさんが···―――

―――冬柴さんはおばさんなんかじゃないですよ

凪原くんが言ったその言葉、ちょっと嬉しかったな。
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